名古屋市の宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)とは?

名古屋市で暮らす私たちにとって、市東部に行くと丘陵地帯があることがお判りいただけると思います。平坦な土地ではなく、丘があったり山林を切り開いて宅地になっているようなところで、坂があったり、土留めの壁の上に家が建築されていたりします。逆に市の中心部や西部に行くとこういった地形は無く、平坦な土地になっています。名古屋の中心部の「栄」駅周辺や「名古屋」駅周辺も平坦な土地です。
その丘陵地帯の土地には高低差があり、「がけ」と呼ばれる地形が発生していたりするため、宅地造成工事規制区域と呼ばれる区域が指定されています。その宅地造成工事規制区域がある区は、千種区、昭和区、瑞穂区、守山区、緑区、名東区および天白区の合計7区でした。しかし、宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)によりその区域が広がりました。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)は、宅地造成を行う際や特定の盛土を行う際に、その目的や手順、そしてその影響を考慮することを求めています。実際、宅地造成にかかわる業者や地方自治体、さらには一般市民にとっても、この法律の理解は不可欠です。早速この法律の詳細について見ていきましょう。まずは、盛土規制法の目的や背景、そしてその適用範囲について詳しく解説します。
Contents
- 1 宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)とは?
- 2 宅地造成法規制法と宅地造成及び特定盛土等規制法の関係
- 3 宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)の適用範囲と具体的な規制内容
- 4 宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による盛土等の安全性の確保
- 5 宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による責任所在の明確化
- 6 宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による機動的な是正命令
- 7 宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による実効性のある罰則
- 8 宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による不動産取引について
- 9 まとめ|宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)を正しく理解しよう
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)とは?
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)は、盛土等による災害から国民の生命・身体を守ると言う趣旨から、盛土等を行う土地の用途やその目的にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する法律です。
参考:国土交通省ホームページ 「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)について
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)の概要
宅地造成及び特定盛土等規制法、通称「盛土規制法」は、日本国内における土地利用の安全性を確保するための重要な法律です。特に、地震や大雨などの自然災害からの影響を軽減し、安心して居住できる環境を提供するために制定されています。土地を盛土する行為には慎重な管理が求められ、これにより地域の安定性やインフラの強度を保つことが目指されています。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)の目的と背景
盛土規制法の主要な目的は、土地の安定性を確保し、居住者や地域住民の安全を守ることにあります。特に日本は地震や豪雨など、自然災害が多発する国です。そのため、盛土によって造成された宅地が地震や雨水の影響を受けにくいのか、またはどの程度安全に利用できるのかを明らかにする必要があります。
この法律が制定された背景には、過去の災害による悲惨な事故や被害があります。2021年(令和3年)7月、静岡県熱海市で甚大な土石流災害が発生し、その影響で多くの命が失われました。これらの出来事は、盛土に対する管理や規制がいかに重要かを如実に示しています。
宅地造成法規制法と宅地造成及び特定盛土等規制法の関係
この法律と似たような名称の法律で、「宅地造成等規制法」と言った法律がありました。「ありました」と過去形なのは、現在ではこの法律は無くなっているからです。無くなったと書くと消滅したみたいですが、正確には、宅地造成等規制法が宅地造成及び特定盛土等規制法へ名称の変更と共に規制内容もより厳しく変化し、新たな規制区域も誕生したことになります。この宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)の施行日は、2023年(令和5年)5年5月26日です。
名古屋市の運用時期
盛土規制法についての名古屋市の運用時期は、2025年(令和7年)5月19日からになります。法律としては施行されていますが、2年間の経過措置期間が設けられています。
名古屋市の特定盛土等規制区域
盛土規制法には、新たに「特定盛土等規制区域」も設けられました。これは、市街地や集落などから離れているものの、地形等の条件から、盛土等が行われれば人家等に危害を及ぼしうるエリア(傾斜地等)も指定するものですが、名古屋市内はこの区域はありません。ただし、愛知県全域で見ると一部の地域に特定盛土等規制区域があります。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)の適用範囲と具体的な規制内容
実際に名古屋市において盛土規制法の適用範囲と制限内容はどのような物になるのでしょうか。順番に見ていきましょう。
名古屋市の適用範囲
盛土規制法によって規制を受ける範囲は、名古屋市全域です。名古屋市全域が「宅地造成工事規制区域」に指定されます。今までは、丘陵地帯のある千種区、昭和区、瑞穂区、守山区、緑区、名東区および天白区の合計7区でしたが、「栄」駅のある中区や「名古屋」駅のある中村区と言った平坦な土地の地域までもが「宅地造成工事規制区域」に指定になります。
「宅地造成工事規制区域」は、市街地や集落、その周辺など、盛土等が行われれば人家等に危害を及ぼしうるエリアと定義されています。
盛土規制法施行までは、「栄」駅のある中区や「名古屋」駅のある中村区と言った平坦な土地の地域で高低差のある土地については、高さ2mを超える高低差の場合は、愛知県がけ条例が適用となっていました。


スキマのない規制
盛り土法による規制については、「スキマのない規制」になっていて、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定されました。
規制対象
規制対象については、規制区域内で行われる盛土等と宅地造成等の際に行われる盛土だけでなく、単なる土捨て行為や一時的な堆積についても名古屋市長の許可の対象とするとなっています。ここでの注目ポイントは、単なる土捨て行為や一時的な堆積についても名古屋市長の許可の対象ではないでしょうか。
宅地造成とは
宅地造成とはなんとなくイメージは知っていると思われている方も多いと思います。宅地造成とは、山林・森林や農地などを宅地(建物を建てられる土地)に変更するために、傾斜のある土地を水平にするために土地を足したり土を削ったりして、土地の形状などを変更することです。
それと、ショッピングセンター跡地や工場跡地を住宅地にする場合や土地の地盤改良も宅地造成に含まれます。現在、名古屋市では、市街化区域では500平方メートル以上の土地を宅地造成する場合、あらかじめ市長の許可を受けなければなりません。
規制内容
規制内容については、
- 一定規模以上の盛土等を行う場合は許可が必要
- 土地所有者等は盛土等を安全に保つ必要がある
となっています。
許可対象となる盛土等の規模
気になる許可対象となる盛土等の規模ですが、
- 盛土で高さが1m超の崖を発生させるもの
- 切土で高さが2m超の崖を発生させるもの
- 盛土と切土を同時に行い高さが2m超の崖を発生させるもの
- 盛土で高さが2m超となるもの(崖の発生は無しの場合)
- 盛土または切土をする面積が500㎡超となるもの
- 最大時に堆積する高さが2m超かつ面積が300㎡超となるもの
- 最大時に堆積する面積が300㎡超となるもの
になります。
この中で、黄色のマーカー以外の項目は、従前の宅地造成工事規制区域での制限でしたが、今回は新たに黄色のマーカーの項目が追加になりました。単なる土捨て行為や一時的な堆積についても規模によっては規制の対象となります。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による盛土等の安全性の確保
盛土規制法では、盛土等を行うにあたり、許可・基準や検査についても決められています。新たな規制もあったりして旧宅地造成等規制法よりも厳格化されている感じがします。
許可基準・手続き
盛土規制法では、盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定しています。この場合、許可に当たっては、工事主の資力・信用、工事施工者の能力についても審査されます。そして、工事主の氏名および現場の所在地等は公表されます。公表の方法は分かりませんが、公告や公示でしょうか。
そして、許可に当たっては、土地所有者等の同意および周辺住民への事前の周知(説明会の開催等)を要件化しています。
ここで言う土地所有者とは、盛土を行う土地の所有者全員です。例えば土地所有者が5人いた場合、5人全員からの同意が必要です。しかも全員が名古屋市内に居住とは限りません。北海道・東北地方や九州地方・沖縄県と言った名古屋から遠方に居住しているとなるとまずは、可能なのか不可能なのか確率を考えた方がよさそうです。
中間検査・完了検査
許可基準に沿って安全対策が行われているかを確認するため、
- 施工状況の定期報告化
- 施工中の中間検査
- 工事完了時の完了検査
を実施します。
さらに地域の実情に応じて、条例により、許可基準の強化のほか、定期報告会の頻度や内容、中間検査の対象項目等の上乗せが出来る旨の規定を措置しています。
災害防止のための安全措置の規定
災害防止のための安全措置の規定の内容としては、盛土・切土に関しては、
- よう壁の設置
- 排水施設の設置
- 地盤の締固め
等が主な安全基準になります。
名古屋市の擁壁(ようへき)に関しての記事は以下の記事をご参照ください。

規制内容として新たに追加されたもの
規制内容として新たに追加されたものとしては、一時的な堆積に関して、
- 体積の高さ
- 斜面の勾配
- 境界柵の設置
等が主な安全基準になります。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による責任所在の明確化
盛土規制法では、盛土等を行うにあたり、責任の所在も明確化されています。どんなことが明確化されているか見ていきましょう。
管理責任
盛土等が行われた土地について、土地所有者等が常時安全な状態に維持する責務を有することが明確化されています。
ここで言う土地所有者とは、土地の所有者をはじめ、管理者、占有者(賃借人等)になります。そして、土地が譲渡された場合でも、その時点での土地所有者等に責務が発生します。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による機動的な是正命令
盛土規制法では、盛土等を行うにあたり、機動的な是正命令も出来る事になっています。どんな内容か見ていきましょう。
監督処分
災害防止のため必要な時は、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても是正措置等を命令できるようになります。
これは、当該盛土等を行った造成主や工事施工者、過去の土地所有者等も、原因行為者として命令措置の対象になり得りますので、注意が必要です。
例えば、無許可での盛土・安全基準違反や検査の受検義務違反等があった場合は、
- 施工措置命令
- 災害措置防止命令(よう壁の設置等)
の命令が出される可能性があります。
また、管理不全等により安全性に問題が生じている場合は、
- 改善命令(よう壁の設置等)
の命令が出される可能性があります。
また、命令の相手方を確知出来ない、命令するいとまがない、命令されたものが期限までに対策を実施しない等の場合は、名古屋市長が代執行を行います。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による実効性のある罰則
盛土規制法では、盛土等を行うにあたり、実効性のある罰則も出来る事になっています。どんな内容か見ていきましょう。
罰則
罰則に関しては、厳罰化されているようで、罰則が抑止力として十分機能するよう、無許可行為や命令違反等に対する、懲役刑および罰金刑について、条例による罰則の上限より高い水準に強化されています。
具体的には、
無許可、安全基準違反、命令違反等に対する懲役刑および罰金刑については、条例による罰則の上限より高い水準に強化されていて、最大で懲役3年以下・罰金1,000万円以下の規定となっています。
そして、工事主の法人に対しても抑止力として、十分に機能するように、最大3億円以下の法人重科の措置との規定となっています。
宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)による不動産取引について
盛土規制法が施行されると不動産取引にどんな影響があるか懸念される事項を考えてみたいと思います。今までと違い、名古屋市全域が宅地造成工事規制区域になったことでどんな影響が出てくるのでしょうか。
よう壁の懸念で売却金額に変化
名古屋市の中心部から西部にかけては平坦な地形の土地が多いですが、中には、水害対策や、日当たりや眺望を得るために土留め壁を作って道路よりも高くしている家もあります。また、田に隣接している家なんかは隣の田よりも高い位置に家を建てるために盛土を行っています。
そのような盛土が必要な土地を購入して住宅を建築する場合、盛土が1.1m必要だった場合を考えると、今までは、コンクリートブロックの土留め壁でも良かったのですが、名古屋市型のよう壁を設置する必要が出てきます。
そうなると、売却する際に今後のよう壁を加味した価格設定が必要になります。そして購入する場合も同じで、建築する場合には、高低差を1m以下出来れば良いですが、出来なければ、名古屋市型のよう壁を設置する必要が出てきて資金計画が狂ってくる可能性も出てきます。
結果として土地売買に影響を及ぼす可能性が十分にあります。

盛土の高さに制限が出てくる
今までは、盛土で1.1mかさ上げしたい場合でしたら、土留め壁はコンクリートブロックで作っていたかもしれませんが、今後は、名古屋市型のよう壁で作る必要が出てきます。コスト面でかなりの差が出ますので、かさ上げを行うのであれば1m以下にするか、どうしても1mを超えてかさ上げするのでしたら、名古屋市型よう壁を設置することになります。
法整備前の土留め壁やよう壁はどうなる
盛土規制法が施行されるよりも前に土留め壁やよう壁を設置してある場合、盛土規制法が施行後に建物の建て替えを行う場合には、一級建築士等の検査を受け問題ないとの判断が出た場合にはその土留め壁やよう壁を使用することも可能です。
これによって、中古住宅の売買に関しては、既存の土留め壁やよう壁を取り壊して新たに作る必要が必ずしも無いので、少しは安心できそうです。
※ただし、この件については、既存の宅地造成工事規制区域内の取り扱いと同じになると思いますが、変更がある可能性もあるらしいです。
まとめ|宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)を正しく理解しよう
宅地造成及び特定盛土等規制法、通称「盛土規制法」は、日本における土地利用の安全を確保するために欠かせない法律です。この法律を理解し、遵守することは、業者だけでなく地域住民にとっても非常に重要です。
盛土規制法の適用範囲や具体的な規制、さらに違反した場合のリスクについてしっかりと理解することで、より安全で持続可能な社会を築くことが可能です。
特に自然災害のリスクが高まる中で、この法律が果たす役割はますます重要になってくるでしょう。
盛土規制法を正しく理解し、遵守することが、私たち自身の未来の安全を守ることに繋がります。この記事が少しでもその手助けとなれば幸いです。







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